投稿

7月, 2021の投稿を表示しています

日本語の文献に見る「降水」

今回はドイツ語についてはちょっとお休みして、日本語の「降水」についてちょっと文献を漁ってみた結果を以下にまとめてみようと思います。 各種事典・辞書類の記述 まずは専門書の記述から。三省堂『気象ハンドブック』第三版 (2005) の定義によると、「降水」とは 17.2.6. 降水(雨) 水蒸気が大気中で凝結したり、昇華してできた水滴や氷片、あるいはそれらが凍結、融解してできた氷片、水滴などが落下する現象、または落下したものを降水(通常は雨という)という。雪などのように氷片による降水を区別していう場合は、これを固形降水という。降水量とは、ある時間内に、地表の水平面に達した降水の量をいい、水の深さで表す。(以下略) 朝倉書店『気象ハンドブック』第三版 2005年 pp.242-243. とのことです。これを見る限り、降水には「落下」の意味が重要であり、雨量枡で捕捉可能な形態を主に想定していることが見てとれます。 次に一般向けの辞書の記述を見てみます。まずは『大辞林』第2版(三省堂)から。 こうすい  かう― ① 【降水】 地上に降下する、大気中の水分。雨・雪・霰など。 三省堂『大辞林』第二版 1988年 p.824. 次に『日本国語大辞典』(小学館)の記述を見てみます。 降水  カウ― [降水][名] 雨および雪、あられ、ひょうなど、大気中で凝結した水蒸気で地上に落下し、水になるもの。 *英和和英地学字彙 (1914) 「Kōsui Precipitation, Meteoric Water 降水」 *伊吹山の句に就て (1924) 〈寺田寅彦〉「何ゆえにこのような区域に、特に降水が多いかといふ理由について」 (以下略) 小学館『日本国語大辞典』第二版第五巻 1972, 1979, 2001年 p.337. これらはよりシンプルな書き方にはなっていますが、どちらも落下する水分という定義がメインとなっており、「露」や「霜」についても同様に言及はありません。 寺田寅彦『凍雨と雨氷』 なお、上記の

Niederschlag 「降水」

英語 precipitation 「降水」 「降水」はドイツ語では Niederschlag (m. -(e)s/-schläge) と呼ばれます。大体英語の precipitation に相当する語と考えてよく、以下の文章でも両語を共に「降水」と訳していますが、文献を見ると両語の扱いには微妙な差異も見られます。まず英語の precipitation ですが、試しにペーパーバック版のオックスフォード気象辞典 A Dictionary of Weather , Second Edition, 2001, 2008. で precipitation の項目 (p.201) を引いてみると、そこには以下のような説明があります(訳と下線は当ブログ筆者)。 Precipitation Water in either liquid or solid form that is derived from the atmosphere and falls to the surface. It thus includes drizzle, rain, freezing rain, hail, ice pellets, ice crystals, snow, and other forms. It specifically excludes clouds, dew, fog, frost, mist, and rime (which are either suspended in the atmosphere or deposited directly on to the surface) , together with virga (which do not reach the ground). 大気に由来し、地面へと落下する液体もしくは固体の水分。例えば霧雨、雨、凍雨、雹、霰、氷晶、雪、その他の形態が含まれる。(地上に到達しない)尾流雲に加えて、 (大気中に浮かんだままかもしくは物体の表面へ直接沈着する)雲、露、霧、霜、もや、霧氷は明確に除外される。 A Dictionary of Weather, Second Edition, O

前線・収束域

様々な「前線」 Front (f. -/-en) 「前線」とは、性質が異なる気団 Luftmasse (f. -/-n) 同士の間に形成される境界 Luftmassengrenze (f. -/-n) のことです。ただし境界といっても、実際には両気団の境目には風船の薄膜のような仕切りがあるわけではもちろんなく、3次元的に見ると、気団同士の間にはある程度の厚さを持つ Frontalzone (f. -/-n) 「前線帯」(もしくは「転移層」とも)とでもいうべきものが存在しています。その層の内部では気温や湿度、密度などの性質が一方から他方へと行くにつれて気団内部よりも大きく変化しており、その前線帯が地上と接するあたりが前線とみなされます。 (前線解析には日射による温度変化の影響を受けにくい 850hPa 面が主に用いられます。例えば寒冷前線の場合、まずは等温線などの密集している遷移域の暖気側の縁に前線のあたりを付けます。前線付近では風向・風速が急変しており、等圧線も大きくカーブしていることが多いため、地上天気図ではそれらも考慮して線が引かれることになります。) 成因に応じて Warmfront 「温暖前線」、 Kaltfront 「寒冷前線」、 Okklusion (f. -/-en) 「閉塞」「閉塞前線」、 stationär e Front 「停滞前線」などのように呼び分けられます。地上面との交線であることを明示する際には Bodenfront 「地上前線」という言い方がされることもありますが、中には地上では目立たず上空でのみ解析される前線もあり、そのような場合には、例えば Höhenkaltfront 「高層寒冷前線」や Höhenwarmfront 「高層温暖前線」などのように呼ばれることもあります。 前線の移動 暖かい気団が冷たい気団の上に乗り上げる( auf|gleiten 「滑昇する」)と、地上天気図では両気団の境界域に温暖前線が引かれることになります。逆に冷たい気団が前面の暖かい気団の下にもぐり込む( sich Akk unter etw Akk schieben )と、寒冷前線が引かれます。伝統