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Regen 「雨」、 regnen 「雨が降る」、 regnerisch 「ぐずついた」

雨および降雨現象にまつわる語形、構文等は実に多彩ですが、以下では Regen (m. -s/-) 「雨」およびその派生語の中からいくつかを選んで紹介してみたいと思います。 名詞 Regen 「雨」、動詞 regnen 「雨が降る」 まず、「雨」を表す最も一般的な名詞は Regen (m.) です(英語の rain に相当)。動詞形 regnen 「雨が降る」「雨あられのように降り注ぐ」もこの Regen を動詞化したものです。 この動詞 regnen は、主に非人称動詞として es regnet. 「雨が降る」(英語の it rains. に相当)の形で用いられますが、非人称主語の es を伴ったままで対格名詞を支配して他動詞的に用いられたり、さらには主格名詞を主語において人称動詞的に用いられることもあるようです。 これにさらに前綴りを付加することによって様々な派生動詞が作られます。例えば動詞 sich Akk ab|regnen 「雨として降り尽くす」、 etw Akk beregnen 「全体に水を雨のように降らせる」「灌水する」、 verregnen 「雨で台無しになる」およびその分詞形 verregnet 「雨に降られた」「雨で台無しになった」などです。派生形容詞としては、 regnerisch (adj.) 「ひんぱんに雨の降る」「ぐずついた」のほか、 regenarm (adj.) 「雨量が少ない」、 regenreich (adj.) 「雨量が多い」等々、多くの派生語、複合語があります。 これら Regen , regnen の派生語、およびこれら以外の語句による雨の表現については、また別のページで改めて取り上げることにして、以下ではとある形容詞について少しばかり論じてみたいと思います。 形容詞 regnerisch 「ぐずついた」 形容詞 regnerisch は、雨が降りがちでぐずついている空の状態を指す言葉です。小学館『独和大辞典』コンパクト版 (1985, 1990) にも、 雨がちの、よく雨の降る;雨の降りそうな、雨模様の と

日本語の文献に見る「降水」

今回はドイツ語についてはちょっとお休みして、日本語の「降水」についてちょっと文献を漁ってみた結果を以下にまとめてみようと思います。 各種事典・辞書類の記述 まずは専門書の記述から。三省堂『気象ハンドブック』第三版 (2005) の定義によると、「降水」とは 17.2.6. 降水(雨) 水蒸気が大気中で凝結したり、昇華してできた水滴や氷片、あるいはそれらが凍結、融解してできた氷片、水滴などが落下する現象、または落下したものを降水(通常は雨という)という。雪などのように氷片による降水を区別していう場合は、これを固形降水という。降水量とは、ある時間内に、地表の水平面に達した降水の量をいい、水の深さで表す。(以下略) 朝倉書店『気象ハンドブック』第三版 2005年 pp.242-243. とのことです。これを見る限り、降水には「落下」の意味が重要であり、雨量枡で捕捉可能な形態を主に想定していることが見てとれます。 次に一般向けの辞書の記述を見てみます。まずは『大辞林』第2版(三省堂)から。 こうすい  かう― ① 【降水】 地上に降下する、大気中の水分。雨・雪・霰など。 三省堂『大辞林』第二版 1988年 p.824. 次に『日本国語大辞典』(小学館)の記述を見てみます。 降水  カウ― [降水][名] 雨および雪、あられ、ひょうなど、大気中で凝結した水蒸気で地上に落下し、水になるもの。 *英和和英地学字彙 (1914) 「Kōsui Precipitation, Meteoric Water 降水」 *伊吹山の句に就て (1924) 〈寺田寅彦〉「何ゆえにこのような区域に、特に降水が多いかといふ理由について」 (以下略) 小学館『日本国語大辞典』第二版第五巻 1972, 1979, 2001年 p.337. これらはよりシンプルな書き方にはなっていますが、どちらも落下する水分という定義がメインとなっており、「露」や「霜」についても同様に言及はありません。 寺田寅彦『凍雨と雨氷』 なお、上記の

Niederschlag 「降水」

英語 precipitation 「降水」 「降水」はドイツ語では Niederschlag (m. -(e)s/-schläge) と呼ばれます。大体英語の precipitation に相当する語と考えてよく、以下の文章でも両語を共に「降水」と訳していますが、文献を見ると両語の扱いには微妙な差異も見られます。まず英語の precipitation ですが、試しにペーパーバック版のオックスフォード気象辞典 A Dictionary of Weather , Second Edition, 2001, 2008. で precipitation の項目 (p.201) を引いてみると、そこには以下のような説明があります(訳と下線は当ブログ筆者)。 Precipitation Water in either liquid or solid form that is derived from the atmosphere and falls to the surface. It thus includes drizzle, rain, freezing rain, hail, ice pellets, ice crystals, snow, and other forms. It specifically excludes clouds, dew, fog, frost, mist, and rime (which are either suspended in the atmosphere or deposited directly on to the surface) , together with virga (which do not reach the ground). 大気に由来し、地面へと落下する液体もしくは固体の水分。例えば霧雨、雨、凍雨、雹、霰、氷晶、雪、その他の形態が含まれる。(地上に到達しない)尾流雲に加えて、 (大気中に浮かんだままかもしくは物体の表面へ直接沈着する)雲、露、霧、霜、もや、霧氷は明確に除外される。 A Dictionary of Weather, Second Edition, O

前線・収束域

様々な「前線」 Front (f. -/-en) 「前線」とは、性質が異なる気団 Luftmasse (f. -/-n) 同士の間に形成される境界 Luftmassengrenze (f. -/-n) のことです。ただし境界といっても、実際には両気団の境目には風船の薄膜のような仕切りがあるわけではもちろんなく、3次元的に見ると、気団同士の間にはある程度の厚さを持つ Frontalzone (f. -/-n) 「前線帯」(もしくは「転移層」とも)とでもいうべきものが存在しています。その層の内部では気温や湿度、密度などの性質が一方から他方へと行くにつれて気団内部よりも大きく変化しており、その前線帯が地上と接するあたりが前線とみなされます。 (前線解析には日射による温度変化の影響を受けにくい 850hPa 面が主に用いられます。例えば寒冷前線の場合、まずは等温線などの密集している遷移域の暖気側の縁に前線のあたりを付けます。前線付近では風向・風速が急変しており、等圧線も大きくカーブしていることが多いため、地上天気図ではそれらも考慮して線が引かれることになります。) 成因に応じて Warmfront 「温暖前線」、 Kaltfront 「寒冷前線」、 Okklusion (f. -/-en) 「閉塞」「閉塞前線」、 stationär e Front 「停滞前線」などのように呼び分けられます。地上面との交線であることを明示する際には Bodenfront 「地上前線」という言い方がされることもありますが、中には地上では目立たず上空でのみ解析される前線もあり、そのような場合には、例えば Höhenkaltfront 「高層寒冷前線」や Höhenwarmfront 「高層温暖前線」などのように呼ばれることもあります。 前線の移動 暖かい気団が冷たい気団の上に乗り上げる( auf|gleiten 「滑昇する」)と、地上天気図では両気団の境界域に温暖前線が引かれることになります。逆に冷たい気団が前面の暖かい気団の下にもぐり込む( sich Akk unter etw Akk schieben )と、寒冷前線が引かれます。伝統

天気図上での高圧部・低圧部

地上天気図での高圧部 地上天気図で高圧部が広範囲に及ぶ場合、その周辺域で Isobare (f. -/-n) 「等圧線」が低圧側へ張り出した部分のことは Rücken (m. -s/-) 「尾根」といい、特に等圧線の曲がりが急な部分は Keil (m. -(e)s/-e) 「くさび」と呼ばれます。日本付近の地上天気図では高気圧圏内の等圧線が急カーブを描くことはあまりないのでピンと来ないのですが、ヨーロッパの天気図には日本の天気図とはまた異なる独特の多様性があり、こういう言い方がふさわしく思える形状の等圧線も時折目にします。高気圧であることを明示して Hochdruckrücken (m.) 「高気圧の尾根」もしくは Hochdruckkeil (m.) 「高気圧のくさび」などという言い方がされることも多いです。また、2つの高気圧がつながって細長い高圧帯が形成されれば Hochdruckbrücke (f. -/-n) 「高気圧の橋」と呼ばれますし、2つの低圧部の間に相対的に周囲より気圧の高い領域が出来れば Zwischenhoch (m. -s/-s) (字義:間の高気圧)と呼ばれます。後者は日本付近で言えば、春にしばしば低気圧と交互に訪れる移動性高気圧が近いでしょうか。いずれも必ずしも専門用語というわけではありませんが、気象概況文や予報文などでは時々目にします。 高層天気図での高圧部 一方高層天気図では、上記の Rücken や Keil に加えて、高層であることを明示するために Höhen- を付加した Höhenrücken (m.) 「高層の尾根」や Höhenkeil (m.) 「高層のくさび」などの表現が取られることもあります。ただし高層天気図では、地上天気図と違って「等圧線」ではなく、 500hPa 面などの特定の気圧面の「等高度線」の張り出しをそのように呼びます。これは平均海面からどれだけ上ったところで気圧が特定の値( 500hPa 図なら 500hpa )になるか、その高度をメートル(もしくは図によっては10メートル)単位で図示したものです。「等高度線」は地理学などでは Isohypse (f. -/-n) といいます

高気圧・低気圧とともに用いられる表現

高気圧や低気圧の発生、移動、衰退等については、枚挙にいとまがない程に様々な表現が可能であり、以下にあげるのもほんの一例です。 発生・発達 まず、高気圧や低気圧が発生したことを単純に表す語としては、 entstehen 「発生する」(名詞形: Entstehung (f. -/-en, 通常は単数) 「発生」)が最も一般的ですが、明確な形をとって出現することを表す sich Akk aus|bilden 「はっきりと形成される」などが使われることも多いです。高気圧や低気圧の発達は sich Akk entwickeln 「発達する」(名詞形: Entwicklung (f. -/-en) 「発達」)が一般的ですが、 auf etw Akk über|greifen 「〜へ勢力を広げる」、 sich Akk aus|breiten 「拡大する」(名詞形: Ausbreitung (f. -/-en) 「拡大」)などのように、勢力範囲の拡大という形で発達が表現されることもあります。 他にも、気団や高気圧などが予報対象地域に本格的に影響を及ぼし始めると、その影響を主語として sich Akk ein|setzen や sich Akk ein|stellen などのように、前綴り ein- を冠した動詞が使われることがあります。一方、予報対象範囲の隅々まで影響を広く行き渡らせ切ったことを表す場合には、 sich Akk durch|setzen などのように、前綴り durch- を冠した動詞もよく目にします。 滞留・移動 高低気圧がどこかに位置していることを表す場合、まずは単純に自動詞 liegen 「位置する」が使われることが多いですが、同じ場所への停滞、滞留の表現としては、 bleiben や verbleiben 「留まる」など、またブロッキング高気圧などのようにその場にどっしりと腰を据える場合には sich Akk etablieren 「(ある位置で)安定化する」など、また頑として同じ位置から動かないことを表す場合には verharren 「居座る」など、実に

高気圧と低気圧の名称

西洋語圏には、昔から大きな被害を出した気象現象に地名などにちなんだ名前を付ける習慣がありました。そのうちのいくつかについては、ドイツ語版 Wikipedia の Namensvergabe für Wetterereignisse 「気象上の事件への名付け」のページや、 Liste von Wetterereignissen in Europa 「ヨーロッパにおける気象上の事件のリスト」のページから辿ることができます。例えば17世紀には Thüringer Sintflut (f.) 「チューリンゲンの洪水」 (29/30. Mai 1613) などがあったことが分かります。低気圧に西洋語系の人名を付ける習慣は第二次世界大戦中のアメリカで始まり、当時太平洋で発生していた複数の台風を女性名で呼び分けたのが最初とされています。ドイツでは、ベルリン自由大学気象研究所 Institut für Meteorologie der Freien Universität Berlin が1954年以来、自国の天候に影響を及ぼす可能性のある高低気圧に対して人名由来の名称を付加する役目を担っており、ドイツ国内のマスコミはその名称を使用して気象情報を発信しています。 国内の気象に影響のありそうな高低気圧が発生すると、気象研究所は予め用意されている候補名リストから順番に名前を「付ける」 ( vergeben ) わけですが、その「名付け」は名詞では Namensvergabe (f. -/-n 主に単数で) もしくは Namensvergebung (f. -/en 主に単数で) などと言われます。(どちらの形も可能です。間に -s- を入れない形もあるようです。)動詞 taufen もしばしば用いられますが、これは本来は人に「洗礼を施す」「洗礼名を与える」という意味です。すでに名付けられた高低気圧が複数に分裂した場合、もとの名前の後に順番にローマ数字が割り振られます。(ちなみにドイツでは、高低気圧の名称は天気図上では常に大文字で表記されます。) なお、アゾレス海域の高気圧とアイスランド付近の低気圧は、それぞれその場に定常的に存在し続ける息の長い気圧系であり、ドイツ語では

Hoch と Tief

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高気圧 Hochdruckgebiet (n. -(e)s/-e) と低気圧 Tiefdruckgebiet (n. -(e)s/-e) は、短い形でそれぞれ Hoch (n. -s/-s) と Tief (n. -s/-s) とも呼ばれます。どちらもひと目で分かる通り、それぞれ「高い」「低い」を表す形容詞をそのまま名詞として用いています。由緒正しいドイツ語本来の形をしているようにも見えますが、複数形は -s を付加して Hochs / Tiefs と、なぜか外来語のような形になります。なぜなのか、一応文法書で調べてみました。 Helbig, G. & Buscha, J. の Deutsche Grammatik (1970, 1989, 1991) によれば、ドイツ語の名詞の中で、複数形語尾として -s を付加するのは以下の語群です( p.242. カッコの中は当ブログ筆者による仮訳)。 Viele Fremdwörter, besonders aus dem Englischen und Französischen. (とりわけ英語およびフランス語からの外来語の多く) Substantive, die auf Vokal enden (außer - e ). (( -e 以外の)母音で終わる実詞) Kurzwörter. (短縮語) Einige Wörter aus der Seemannssprache und Meteorologie. (船員用語及び気象学からの若干の単語) このうち最初の英仏語由来の外来語が複数語尾に -s を取るのはまあ分かるとして、2つ目と3つ目もなんとなく理解はできるのですが、最後の「船員用語及び気象学」だけやけに具体的なのが何気に気になります。実例として、「船員用語」の方には Deck (n. -s/-s, -(e)s/-e) 「甲板」、 Pier (m. -s/-e(-s), f. -/s) 「埠頭」、 Wrack (n. -(e)s/-s(-e)) 「難破船」の3つ、「気象学」の方にはちょうどここで問題にしている

高気圧と低気圧

高気圧と低気圧は、それぞれ Hochdruckgebiet (n. -(e)s/-e) / Tiefdruckgebiet (n. -(e)s/-e) と呼ばれています。(ここではスラッシュを挟んで両者を並べています。以下も同様です。)それぞれの後半部分 Gebiet (n. -(e)s/-e) は「領域」を意味する言葉です。前半部分はそれぞれ正確には「高い圧力 Hochdruck (m. -(e)s/-e) 」 / 「低い圧力 Tiefdruck (m. -(e)s/-e) 」を意味する言葉ですが、しばしば気圧 Luftdruck (m. -(e)s/ ) の高い領域(高気圧)と低い領域(低気圧)のそれぞれを指して単独でも用いられます。さらに短く Hoch (n. -s/-s) / Tief (n. -s/-s) と呼ばれることもあり、天気図上では頭文字だけでそれぞれ H / T と表記されます。それぞれの気圧系が及ぼす影響は、 Gebiet のかわりに Einfluß (m. -flusses/-flüsse) 「影響」を付加して Hochdruckeinfluß (m. -flusses/-flüsse) / Tiefdruckeinfluß (m. -flusses/-flüsse) のように呼ばれます。 なお、高気圧や低気圧は、どれも固有の成因・構造を持ち、閉じた等圧線とその形状によって周囲からは多少なりとも独立しているとみなせる気圧システムですが、それらの両方を包摂する概念としては、 Druckgebilde (n. -s/-) もしくは Drucksystem (n. -s/-e) という語がよく使われます。これらは高気圧と低気圧の両方を区別なく指示できる、いわゆる上位概念 Oberbegriff (m. -(e)s/-e) です。どちらも日本語では「気圧系」「気圧システム」などの用語に対応すると思えばいいでしょうか、ざっくり「高・低気圧」と呼んでしまってもいい場合もあると思います。 一方、広範囲に及ぶ気流の回転方向に基づいた名称が用いられることもあります。その場合、低気圧は Zyklone (f. -/-n)

Synoptik 「総観気象(学)」

Synoptik (f. -/ 発音:ジュノプティーク、「ノ」にアクセント) という語があります。 語源はギリシャ語の名詞 σύνοψις (f. 発音:シュノプシス「共に ( σύν ) 観ること ( οψις ) 」) もしくは形容詞 συνοπτικός (発音:シュノプティコス「共に観ている」「全体を総括的に観ている」) などに由来し、語尾をドイツ語で学問分野を表す -ik という形にしたものです。日本語では「総観気象」もしくは「総観気象学」と呼ばれており、高気圧や低気圧、前線など、広範囲の天気図を作成することによって初めてその全体像が捉えられる規模(総観規模)の現象を扱う気象学の一分野です。学問名称としては、形容詞形を使った synoptisch e Meteorologie (f.) (字義:総観的な気象学)や、 Synoptikkunde (f.) (字義:総観気象の学問)という呼び方がされることもあります。 元来、気象観測で得られる気温や気圧などのデータはその地点のみの点的なものであり、雲の目視観測も、どんなに条件が良くてもせいぜい半径十数キロ程度の円内をとらえられる程度ですが、ある程度離れた複数の観測地点から同時に観測して、そのデータを突き合わせれば、より広範囲の現象を捉えることも可能になります。 昔は種々の気象要素の観測技術も未発達で、衛星画像はおろかレーダー観測技術すらなく、嵐は単にその土地土地の悪天現象としてしかとらえられていませんでした。地方ごとの天候や気候に対応していくために、長い年月をかけてその土地の住民が自分たちの経験則をまとめ上げたのが、「ことわざ」、いわゆる「天気俚諺(てんきりげん)」と呼ばれるものです。日本にも多くの天気にまつわることわざがありますが、ドイツにも Bauernregel (f. -/-n) 「農事金言」(字義:農夫の法則)というものがあり、その中でも、天候にまつわるもののうちのいくつかについては、統計的にも当たる確率が(若干ではありますが)高いことが分かっています。(詳細についてはドイツ気象局の気象語彙集 Wetterlexikon の Bauernregeln の項目の解説を参照のこと

予報文でしばしば用いられる語句、文表現

「予報する」「予報を作成する」 気象現象そのものを表す際にしばしば用いられる表現については 他のページ でも既に取り上げていますが、ここでは気象概況や予報文などでよく使われる表現を取り上げてみたいと思います。 まず、「予報する」意味を単純に動詞句で表現する場合は、名詞 Vorhersage (f. -/-n) や Prognose (f. -/-n) の動詞形 etw Akk vorher|sagen および etw Akk prognostizieren がそれぞれ使われます。なんらかの「予報を作成する」意味の場合は、予報を意味する上記の名詞などを目的語として、それと動詞 stellen 「立てる」や erstellen 「作成する」「組み立てる」を組み合わせた構文がしばしば使用されます。以下は erstellen による例文です。 Die heutigen Hochleistungsrechner ermöglichen es außerdem, mit dem gleichen Modell zur selben Zeit nicht nur eine, sondern mehrere Vorhersagen zu erstellen. とりわけ現代のスパコンによって、同一のモデルで同じ時間についての予報を一回だけでなく複数回行う(字義:一つだけでなく、複数の予報を作成する)ことが可能になった。 ドイツ気象局の気象ブログ Thema des Tages の2019年5月26日: Numerische Wettervorhersage - Ensemblevorhersagen zur Abschätzung der Vorhersageunsicherheit (数値気象予報―予報の不確実性評価のためのアンサンブル予報) より 自動詞 mit etw rechnen 「想定する」 さらに mit etw Dat rechnen という動詞句も予報文ではしばしば用いられます。動詞 rechnen は基本的には「計算する」という意味を持ち、他動詞用

気象予報

予報 ドイツ語で「予報」を意味する語としてまずあげるべきは Vorhersage (f. -/-n) 「予報」でしょう。しばしば Wettervorhersage (f. -/-n) 「気象予報」の形で用いられます。よく似た語に Wettervoraussage (f. -/-n) や Wetteransage (f. -/-n) があり、意味もほぼ同じですが、メディア上でも文献上でも、最もよく見かけるのはやはり Wettervorhersage (f. -/-n) です。「気象」以外にも、例えば Welle (f. -/-n) 「波浪」、 Pollenflug (m. -(e)s/-flüge) 「花粉の飛散」、 UV-Strahlung (f. -/-en) 「紫外線」、 Waldbrandgefahr (f. -/-en) 「森林火災危険度」などをはじめ、実に様々な種類の予報がいろいろな機関から発表されています。 Prognose (f. -/-n) も同様に「予測」「予報」の意味を持ちます。こちらはラテン語経由でギリシャ語まで遡る、いわゆる外来語で、他に医療用語で「予後(病気の今後の経過についての見通し)」などの意味もあります。科学的根拠に基づいた客観的な予測、という側面が強調される時に用いられやすい語のようです。気象の分野では、しばしば Wetterprognose (f. -/-n) 「気象予報」の形で用いられます。 他にも「気象予報」を表す語としては Wetterbericht (m. -(e)s/-e) 「気象通報」「天気予報」があります。直訳すると「気象の報告」になるため、私は最初、気象についての「現況」報告的な意味がメインかと思っていたのですが、試しにドイツ語のオンライン辞書サイト DUDEN Wörterbuch で Wetterbericht を引いてみると、 "(besonders in Presse, Rundfunk oder Fernsehen veröffentlichter) Bericht des Wetterdienstes über die voraussichtliche Ent

天気の変化、安定・不安定

天気の変化 天気や天候の変化を表す動詞としては、 sich Akk verändern 「変化する」(名詞形: Veränderung (f. -/-en) 「変化」)や wechseln 「交代する」「入れ替わる」(自動詞・他動詞)(名詞形: Wechsel (m. -s/-) 「交代」)、 sich Akk ab|wechseln 「交代する」(名詞形: Abwechs(e)lung (f. -/-en) 「交代」)などがまずあげられます。以下は sich Akk ab|wechseln の用例です。 An der Ostflanke der Luftmassengrenze wird dagegen sehr milde Mittelmeerluft nordwärts geführt, in der sich Sonne und Wolken abwechseln und sich bevorzugt nachmittags einzelne Schauer und Gewitter entwickeln. それに対して気団の境界の東側では非常に温暖な地中海の空気が北へと運ばれ、その中では晴れと曇り(字義:太陽と雲)が 交互に訪れ 、とりわけ午後にはところによりにわか雨や雷雨になるだろう。 ドイツ気象局の気象ブログ Thema des Tages の2019年4月1日: Auf erste Gewitterlage folgen Gegensätze (最初の雷雨の気圧配置に続いて天気は二分される) より ここでは晴れと曇りが交互に訪れることが「交代する」と表現されています。なお、後半の文では sich Akk entwickeln 「発達する」という動詞が使われていますが(名詞形: Entwicklung (f. -/-en) 「発達」)、これはここでは Schauer und Gewitter 「にわか雨と雷雨」の現象が発生し、発達することを表します。こちらも使用頻度の非常に高い動詞です。 また、天気が下り坂に向かい、次第に荒れてくると

気象の発生・持続・解消をあらわす語句、文表現

現象の発生 ここでは天気、天候の様々な変化を表す語句や文を中心に見ていきます。 どの気象要素に着目するか、その開始、持続、終了のどの局面を述べるかによって実に様々な表現が可能です。なので以下にあげるのはそのほんの一例です。(なお、低気圧や前線、降水や風など具体的な現象についてはまた稿を改めて取り上げる予定です。) まず何らかの現象もしくは状態の〈開始〉を表す動詞としては、一般的に物事の始まりを表す an|fangen (名詞形: Anfang (m. -(e)s/-fänge) 「開始」)、 beginnen (名詞形: Beginn (m. -(e)s/ ) 「始め」)、 ein|setzen (名詞形: Einsatz (m. -es/-sätze) 「開始」「投入」)などが使えますが、何らかの事象の発生を表す場合には、例えば auf|treten 「出現する」(名詞形: Auftreten (n. -s/ ) 、 Auftritt (m. -(e)s/-e) 「出現」)、 entstehen 「発生する」(名詞形: Entstehung (f. -/-en) 「発生」) 、 sich Akk ereignen 「起こる」(名詞形: Ereignis (n. -nisses/-nisse) 「出来事」「現象」)、 sich Akk ergeben 「生じる」(名詞形: Ergebnis (n. -nisses/-nisse) 「結果」)、 sich Akk ein|stellen 「生じる、到来する」などがしばしば使用されます。 sich Akk aus|bilden 「発生する」「形成される」(名詞形: Ausbildung (f. -/-en) 「形成」)も、雨粒のように具体的なものから抽象的な状況に至るまで、様々なものが「形成される」意味ではおなじみの動詞句です。これらの表現の持つ細かなニュアンスの違いや、表現できる気象現象については、たくさん文章を読みながら少しづつ慣れていくしかありませんが、いずれも使用頻度はとても高い動詞です。 以下はドイツ気象局の気象語彙集 Wetterlexikon

Großwetterlage 「広域気象状況」「氾天候」

一定の気圧配置や気流は、ある程度の期間(最低でも数日以上)、同様の状態が持続することがあります。それらの気圧配置や気流の状況をいくつかの Muster (n. -s/-) 「型」に分類し、それぞれに固有の呼び名を付けたものが Großwetterlage (f.) です(提唱は Franz Baur )。日本でも西高東低型などの気圧配置が一般にもよく知られていますが、あれのヨーロッパ版と思えばいいでしょう。ドイツに留まらず、広く東ヨーロッパから北大西洋までを含む領域における対流圏中・下層の気圧配置や気流の状況などに応じてシステマティックに分類されています。 この語の後半の Wetterlage (f. -/-n) 「気象状況」は、狭い一地域で1日程度の短い期間、特定の状況があまり変化せず持続した場合に、その状況を表す言葉です。で、それよりも時間的、空間的にもっと大規模なバージョンということで、「大きい」を意味する groß- を前に付加した語が Großwetterlage です。なので、全体としては「大局的な気象状況」くらいの意味合いです。ただ日本語では定訳はまだ無く、小学館『独和大辞典』 (1985, 1990) を引くと「 広域気象状況、天気概況 」という訳語がありますが、研究社『独和中辞典』 (1996) では「 (広域・長期の)気象概況 」とあり、『平凡社版気象の事典』 (1986) では「天候」の欄に「 汎天候 」という呼び方があげられています (p.383) 。 一例をあげると、上空で偏西風が卓越する際には West-Wetterlage もしくは Westlage 「西風型」という語が用いられ、低気圧が地中海からポーランド方面へと北東進する気象状況では Vb 型( V はローマ数字の5)などが予報解説文などでもよく用いられます。 Großwetterlage についてはドイツ気象局の気象語彙集 Wetterlexikon の Großwetterlage のページに詳細な分類基準についてのリンクが貼られています。ドイツ気象局による過去及び直近の天候の分析結果は Leistungen 「業績」のカテゴリー中の

Klima 「気候」

Klima 「気候」 様々な期間にわたる長期的な傾向を扱う、いわゆる「気候」は Klima (n. -s/-s, -te) と呼ばれます。昨今では「気候変動」 Klimawandel (m. -s/ ) 、 Klimawechsel (m. -s/-) 、 Klimaänderung (f. -/-en) の形でしばしばメディアでも取り上げられる重要なキーワードにもなっています。 様々な時間スケールにおける Klima 一口に「気候」といっても時間的、空間的に様々な切り取り方があります。例えば仮にある地域である程度の期間、平年値から大きくそれた状態が観測されたとして、それが果たして「異常気象」に当たるのか、どの程度の「異常」( Anomalie (f. -/-n) といいます)なのかを論じる際には、まずは観測されたその気象要素の値を平年値と比較して、そこからの偏り、「偏差」 Abweichung (f. -/-en) を算出することが必要になります。その比較対象となる「平年値」( langjährig er Mittelwert (m.) もしくは vieljährig er Mittelwert (m.) )ですが、これには通常は30年間の範囲を参照期間として算出された値が用いられます。(研究目的によっては異なる期間を参照期間とすることもあります。)この参照期間のことを ( klimatologisch e) Referenzperiode (f.) といいます。通常は10年ごとに更新される30年値を用いるため、2021年からは、1991年から2020年までの30年間が参照期間となります。具体的には、平均値だけでなく、極値、さらには発生頻度や継続期間など様々な要素の平年値が算出されます。(詳しくはドイツ気象局 Wetterlexikon の Klima の項目を参照のこと。)なお、どの期間を参照期間とするか、どれくらいの幅を取るか、等々によって、同じ値であってもその偏りは当然ながら変わってきます。また近代的な気象観測が始まる前の昔の年代の気候を扱う、いわゆる Paläoklimatologie (f. -/ ) 「古気候学」においては、現代から