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広義の Wetter

Wetter (-s/-) という語は、専門用語としてはある一時点もしくはごく短い時間幅における具体的な気象現象を指して用いられるものですが、実はこの語には、狭義での「天気」にとどまらず、そのタイムスパンの長さに関わりなく、広く「気象」そのものを指して用いる用法もあります。(そのうちのいくつかについては 当ブログ でも既に取りあげています。)例えば、広く気象一般を扱った、いわゆる気象本のタイトルに使われる語としても Wetter はおそらく鉄板でしょう。専門用語としても、 Wetter は短期的な「天気」にとどまらず、例えば Wetterlage (f. -/-n) 「気象状況」(1日程度同じような気象条件が持続した場合に、その状態を指す語)や Großwetterlage (f. -/-n) 「広域気象状況」(もしくは「氾天候」:数日から数週間程度、広範囲で同様の気圧配置や気流の状態が持続した場合に、その状態を指す語)などの語においても用いられます。「気象学」 Meteorologie (f. -/ ) は、 Wetterkunde (f. -/ ) (字義:「気象の学問」)と呼ばれることもあります。これらの語における wetter- からは、「短期的な天気」としての意味合いは薄れているように思われます。 これと比べると、 Witterung (f. -/-en) 「天候」の方には、ある程度幅のある期間における大気の平均的な有り様を表す意味しかなく、短期的で具体的な「天気」の意味では使いづらいようです。つまり Witterung 「天候」は、使える期間などの縛りがある分指示範囲が限定的なのに対し、広義の Wetter にはそのような縛りはなく、「天気」から「天候」、さらに言えば Klima (n. -s/-s, -te) 「気候」まで、より広い範囲を指示しうることになります。言い換えれば、広義の Wetter は、狭義の Wetter 「天気」や Witterung 「天候」(やそれ以外の語)を包摂した上位概念 (Oberbegriff) である、ということになります。 と、少なくとも私はそう解釈しているのですが、

Witterung, Gewitter, Unwetter, Wetterchen

Witterung 「天候」 Wetter (-s/-) と同語源の語の一つに Witterung (f. -/-en) がありますが、こちらはある地域での一定期間(数日から数週間)における平均的な気象状況を指して用いられます。日本語では専門用語としての「天候」におおよそ相当すると考えていいでしょう。あくまでも幅のある期間内での「平均的」気象を意味する言葉ですから、その期間における平均的気象状態を切り出して述べる際には、この語を Phase (f. -/-n) 「局面」や Abschnitt (m. -(e)s/-e) 「断片」「区間」などの名詞と組み合わせて、例えば Witterungsabschnitt (m. -(e)s/-e) 「天候局面」(つまりある期間における平均的な気象状況のこと)などという風に使用されることもあります。 なお、この語の動詞形 wittern は、本来は「嗅ぎつける」という意味を持ち、名詞形 Witterung にも「天候」と並んで「におい」、動物の「嗅ぎつけ」など、「嗅覚」と関わりの深い意味があります。これらと Wetter の語根に想定されている「風が吹く」という意味との間には、一見すると何の関係もないようにも思えます。ただ、そもそも匂いは風が吹くことによって初めてよその地へ運ばれるわけで、匂いを嗅ぎつけるという行為自体も、風が吹いてくる方向へと鼻を向けて嗅覚を働かせることにほかなりません。また物の匂いを嗅げば当然鼻腔内での呼気の流れも伴います。これらのことを考え合わせると、「匂いを嗅ぐ」という行為と「風が吹く」という現象の間には、「気流の流れ」という共通項を介して実は密接な関わりがあるという考え方もできます。 Gewitter 「雷雨」 他にも Wetter (n.) や Witterung (f.) と同じ語源を持つ語には Gewitter (n. -s/-) があります。語形としては前綴り ge- が付加された形ですが、こちらはなぜか「雷」「雷雨」の意味を持ち、しばしば Schauer (m. -s/-) 「にわか雨」と組み合わせて、 Schauer und Gewitter (字義:「にわ

Wetter 「悪天」「激しい気象」

「悪天」としての Wetter 辞書を引けば分かる通り、 wetter- で始まる複合語は多く、その意味も一般的な「天気」「気象」などが多いのですが、辞書記述をよく見てみると、これらの wetter- を冠した複合語の中には、「悪天」もしくは「激しい気象」と深い関わりを持つものも意外と少なくないことに気付きます。 例えば小学館の『独和大辞典[コンパクト版]』 (1985, 1990) には、 wetterbeständig (adj.) 、 wetterfest (adj.) 「風雨に耐える」(字義:「気象に対して安定した」)、 Wetterdach (n. -(e)s/-dächer) 「(雨よけの)差し掛け屋根、ひさし」(字義:「気象用屋根」)、 Wetterecke (f. -/-n) 「天候の悪い地域」(俗語、字義:「気象の片隅」)、 wetterhart (adj.)「多年風雨にさらされてきた」(字義:「気象に対して堅固な」)、 Wetterleuchten (n. -s/ ) 「稲光、稲妻、雷光」(字義:「気象光」。通常は夜間に雷鳴のほとんど聞こえないほど遠くの雷によって地平線近くの雲が明るく光る現象を指す。いわゆる「幕電」。)、 Wetterloch (n. -(e)s/-löcher) 「天候の悪い地域」(俗語、字義:「気象の穴」)、 Wettermantel (m. -s/-mäntel) 「レインコート」(字義:「気象用コート」)、 Wetterschaden (m. -s/-schäden) 「風雨による被害、風水害」(字義:「気象害」)、 Wetterschutz (m. -es/-e) 「防水(防雪、防風)設備」(字義:「気象防御」)、 Wetterseite (f. -/-n) 「(山・建物などの)風雨の影響を最も多く受ける側」(字義:「気象にさらされる側」)、 Wetterwolke (f. -/-n) 「雷雲」「暗雲」(字義:「気象雲」)などの一連の語が掲載されています(カッコの中は筆者による補足)。慣用句としても、 Ein Wetter zieht herauf. 「雷雲が近づいてくる

Wetter 「天気」

Wetter および wetter- で始まる複合語 狭義での Wetter (n. -s/-) は、ある地点における特定の一時点もしくはごく短いタイムスパンで観測される具体的な大気の状態もしくは現象を指して用いられます。複合語の一要素としても、例えば Wettererscheinung (f. -/-en) 「気象現象」、 Wetterbeobachtung (f. -/-en) 「気象観測」、 Wetterbericht (m. -(e)s/-e) 「気象通報」、 Wetterdienst (m. -es(-s)/-e) 「気象業務」「天気相談所」、 Wetterkarte (f. -/-n) 「天気図」、 Wettersatellit (m. -en/-en) 「気象衛星」、 Wetterwarte (f. -/-n) 「測候所」、 Wetterhütte (f. -/-n) 「百葉箱」など、実に様々な語との組み合わせが辞書には掲載されています。気温、湿度、気圧、風向、風速、雲量、日射、降水量等々、気象と関係の深い物理量を指して Wetterelement (n. -(e)s/-e) 「気象要素」ということもあります。 「気象現象」 「気象現象」については、上であげた Wettererscheinung 以外にも Wetterphänomen (n. -s/-e) という言い方もあるのですが、こちらはラテン語を介して古典ギリシャ語にまで遡る外来語 Phänomen (n. -s/-e) 「現象」との組み合わせになっています。他にも meteorologisch e Erscheinung (f.) とか meteorologisch es Phänomen (n.) などのように、 Wetter を使わず「気象(学)の」を意味するラテン語由来の形容詞を使う言い方もよく目にします。これらは大気中の諸現象を動的過程、静的状態を問わず普遍的に表現できる語です。これに対して Wettergeschehen (n. -s/-) や Wetterereignis (n. -nisses/-nisse) などの言い方もあるのですが、こちらはあ

日本語の「天気」・「天候」

「気象」 まずは日本語での基本的な語彙についておさらいしておきたいと思います。日本語で「 気象 」という語は、一言で言えば大気のあり様を指す言葉です。時間的、空間的に様々に異なる規模を持つ、大気中の諸現象や状態は全て気象という言葉で表すことができます。これは地震や土石流などの「 地象 」、川の氾濫や洪水などのような「 水象 」、太陽、月、惑星の運動などの「 天象 」、虹などの「 光象 」などと対立した、しかし密接に関連した概念です。 「天気」「天候」「気候」 加えて、気象は、どのようなタイムスパンで切り取って観察・記述するかに応じて異なった呼称が用いられることも多く、中でも特定の時点もしくはごく短い期間における具体的な気象現象は「 天気 」と呼ばれることがあります。例えば「天気予報」や「天気図」などは、全て特定の日時における具体的な気象状況を指し示すために用いられているわけです。これに対して、最低でも数日かまたはそれ以上の幅のある期間における平均的な大気の有り様は「 天候 」と呼んで、天気とは区別することがあります。またさらに長く、数十年もしくはそれ以上のスパンを持つ長期的な傾向については「 気候 」と呼ばれています。 もっとも、これらの用語の区別はあくまでも学問上の約束事みたいなもので、日常の言語使用においてはこの基準に当てはまらない用例も非常に多く見られます。例えば、上で「天候」という語は最低数日の幅のある期間の平均的な大気の有り様を表す、と述べましたが、実際には、 「昼休憩に入るのとほぼ同時に 天候 が急激に悪化したため、午後の行事は全て中止になった。」 などのような言い方は普通に可能ですし、違和感もほとんどないというか、むしろこの文に限っては「天気」の方が逆に使いづらい、という人すらいるかもしれません(「天気」はおそらく、「急に悪くなったので〜」のように和語風の表現にすればもっと使い易くなるでしょう)。 一般的な単語が意味を限定させて専門用語としても用いられるというのは、実は日本語でもドイツ語でも学問分野を問わずしばしば見られる現象です。ただ、それは実際にはそれぞれの学問分野ごとに「この語は専門用語として使う場合にはこういう意味で使いましょう」と取り決めて使っているだけなのであ

はじめに

当ブログの目的 当ブログでは、ドイツ語で新聞の気象概況文や予報文を読んだり、ドイツ語のサイトでいろんな地域の天気について調べたり、ドイツ語の気象ブログを読んだりする際によく見かける表現をトピックごとにまとめていこうと思います。 最近では、天気予報文に限らず、特に電子メディア上の情報であれば、翻訳アプリを使えばその言語を知らなくてもとりあえずは「読む」ことが可能ですが、それでも訳文に要領を得ない箇所がある場合には、原文にあたって調べる必要も出て来るかと思います。また新聞や雑誌などの非電子メディア上の情報であればなおのこと、辞書等を使いまくってああでもないこうでもないと悪戦苦闘しながら読んでいくこともあるかもしれません。そういった際の一助となるよう、自分の勉強も兼ねてこのサイトを立ち上げました。やたらと文字が多くて読みにくいページになるとは思いますが、お役立ていただけるならば幸いです。 自動詞 für etw sorgen 早速ですが、ドイツ語で書かれた天気予報文や気象関係の文章を読んでいると、以下のような文にでくわすことがよくあります(下線は当ブログ筆者)。 Warmes Mittelmeer und anhaltend meridionale Strömung sorgen für extremen Starkregen in Südfrankreich und Norditalien. 温暖な地中海と南から吹き続ける気流のために南フランスと北イタリアでは豪雨になっている。 2014年11月18日のドイツ気象局の報道資料 のタイトルより Neue Wettersatelliten sorgen für genauere Wettervorhersagen. 新型の気象衛星のおかげで気象予報がより正確になっている。 2015年4月19日のドイツ気象局の報道資料 のタイトルより 下線の引かれている動詞句 für etw Akk sorgen は、本来は「…を気にかける」「心配する」「世話する」を意味し、英語であればおよそ care for ... くらいの語句に相当