気象の発生・持続・解消をあらわす語句、文表現


現象の発生

ここでは天気、天候の様々な変化を表す語句や文を中心に見ていきます。


どの気象要素に着目するか、その開始、持続、終了のどの局面を述べるかによって実に様々な表現が可能です。なので以下にあげるのはそのほんの一例です。(なお、低気圧や前線、降水や風など具体的な現象についてはまた稿を改めて取り上げる予定です。)


まず何らかの現象もしくは状態の〈開始〉を表す動詞としては、一般的に物事の始まりを表す an|fangen (名詞形: Anfang (m. -(e)s/-fänge) 「開始」)、 beginnen (名詞形: Beginn (m. -(e)s/ ) 「始め」)、 ein|setzen (名詞形: Einsatz (m. -es/-sätze) 「開始」「投入」)などが使えますが、何らかの事象の発生を表す場合には、例えば auf|treten 「出現する」(名詞形: Auftreten (n. -s/ ) 、 Auftritt (m. -(e)s/-e) 「出現」)、 entstehen 「発生する」(名詞形: Entstehung (f. -/-en) 「発生」) 、 sichAkk ereignen 「起こる」(名詞形: Ereignis (n. -nisses/-nisse) 「出来事」「現象」)、 sichAkk ergeben 「生じる」(名詞形: Ergebnis (n. -nisses/-nisse) 「結果」)、 sichAkk ein|stellen 「生じる、到来する」などがしばしば使用されます。 sichAkk aus|bilden 「発生する」「形成される」(名詞形: Ausbildung (f. -/-en) 「形成」)も、雨粒のように具体的なものから抽象的な状況に至るまで、様々なものが「形成される」意味ではおなじみの動詞句です。これらの表現の持つ細かなニュアンスの違いや、表現できる気象現象については、たくさん文章を読みながら少しづつ慣れていくしかありませんが、いずれも使用頻度はとても高い動詞です。


以下はドイツ気象局の気象語彙集 Wetterlexikon の Platzregen (m. -s/-) 「驟雨」の語義解説から、動詞 ein|setzen 「始まる」が使用されている例です。


Ein plötzlich einsetzender, heftiger und großtropfiger Niederschlag von hoher Intensität, der relativ kurze Zeit anhält.
[和訳:急に発生し、激しく、雨滴の大きい強雨で、持続時間が比較的短いもの。]
ドイツ気象局 Wetterlexikon の Platzregen (m.) 「驟雨」の解説より冒頭部分


ここでは ein|setzen 「始まる」の現在分詞が使われています。(この動詞は他動詞用法が一般的ですが、この意味では専ら自動詞として使用されます。)また以下は sichAkk ein|stellen 「生じる」の例です。


In Alpennähe stellt sich nämlich aufgrund der südlichen Anströmung eine Föhnwetterlage ein. Diese sorgt dafür, dass sich die Luftmasse aus höheren Atmosphärenschichten auch in tieferen Lagen durchsetzen kann.
[和訳:つまりアルプス近郊では、南からの気流によってフェーンの気象状況が発生することになる。これにより、高層由来の気塊は低地にも到達することが可能になる。]
ドイツ気象局の気象ブログ Thema des Tages の2019年12月16日: Milder bis frühlingshafter Start in die dritte Adventswoche(待降節第三週の始まりは穏やかで春のように) より


ここで用いられている動詞 ein|stellen は、再帰動詞としては他にも「(災害や極端な天候などに)備える、対処する」など、また他動詞としても「(作業などを)停止する」「調整する」など、様々な意味で用いられるので、文脈から正しく意味を判断する必要があります。


現象の到達

なんらかの現象が移動してきて特定の地域に〈到達〉した場合には、 an|kommen 「到着する」や erreichengelangen 「到達する」などがしばしば使われます。 gelangen は前線や気団などが特定の地域に到達したことを表すのによく使われる動詞ですが、これには地域の側を主語に置く用法もあるようです。


VERENA zog nordostwärts nach Schweden und Deutschland gelangte auf die Rückseite.
[和訳:(低気圧)フェレナはスウェーデン方向へ北東進し、ドイツは後面に入った。]
ドイツ気象局の気象ブログ Thema des Tages の2020年7月8日: Windiges Wetter mitten im Hochsommer - Woran lag das?(真夏のさなかの強風の天気―その原因は) より


優勢な気象

天気がある現象により一定の性質を帯びている場合、 sichAkk gestalten 「(天気が)形作られる」という動詞が使われることもあります)。


Zwar gestaltet sich das Wetter am heutigen Dienstag in der Osthälfte Deutschlands nochmals überwiegend sommerlich, aber ...
[和訳:今日の火曜日、ドイツ国内の東側では再度夏場のような天候になったものの、しかしながら(以下略)]
ドイツ気象局の気象ブログ Thema des Tages の2019年10月15日: Altweibersommerliches Intermezzo(つかの間の名残の暑さ) より


Der Sonntag gestaltete sich verbreitet sommerlich und vor allem im Süden des Landes auch überwiegend sonnig.
[和訳:日曜日は広範囲で夏場のようになり、とりわけドイツ南部では天候も晴れが優勢になった。]
ドイツ気象局の気象ブログ Thema des Tages の2019年10月15日: Altweibersommerliches Intermezzo(つかの間の名残の暑さ) より


上の文例では Wetter (n.) 「天気」が、下の文例では Sonntag (m.) 「日曜日」が、それぞれ主語になっています。


また、現象の影響が対象地域の隅々まで浸透しきったことを表現する場合、前綴り durch- を冠した動詞、例えば sichAkk durch|setzen などが使われることもあります。このページの2番目の例文の後半にも、「通り切る」意味で使用されている用例がありますが、この動詞句は他にも様々な気象現象を主語に置くことができます。


Bereits am Samstag zieht das Regenwetter ostwärts ab und dann kann sich aus jetziger Sicht bis Anfang nächster Woche mit einem Keil des Azorenhochs wieder ideales Wanderwetter durchsetzen.
[和訳:土曜日には、もう雨天は東へと去り、それから現在の見込みでは来週のはじめまで、アゾレス高気圧の峰の到来とともに再び山歩きには理想的な天候が優勢になる可能性がある。]
ドイツ気象局の気象ブログ Thema des Tages の2016年8月4日: Urlaubswetter in Europa(ヨーロッパの休暇の天気) より


上の例文の後半に出てくる動詞 sichAkk durch|setzen は、国内で山歩きに理想的な天候が国内の隅々まで行き渡る、つまり優勢になることを表していると見ることができます。


ある気象要素が際立っていることを表す際によく用いられる語の一つに ausgeprägt 「際立った」「著しい」があります。これは動詞 aus|prägen 「鋳造する」「刻印する」の完了分詞です(名詞形: Ausprägung (f. -/-en) 「際立ち」)。気象解説文では述語動詞としてよりは、これらの完了分詞や名詞形で用いられることの方が多いようです。


Unter dem Azorenhoch versteht man ein häufig anzutreffendes und mehr oder weniger stark ausgeprägtes Hochdruckgebiet, das ein Bestandteil des subtropischen Hochdruckgürtels ist.
[和訳:アゾレス高気圧は、発生頻度が高く、多少の変動はあるものの強い勢力を持つ高気圧領域であり、亜熱帯高気圧帯の一部を成すものとして理解される。]
ドイツ気象局 Wetterlexikon の Azorenhoch (n.) 「アゾレス高気圧」の解説より冒頭部分


ある現象が特定の地域において天候の成り行きや大気の状態を左右している時、その現象を主語に置いて、それがその地域を「支配している」という言い方をすることがあります。例えば以下のような感じです。


An der Südflanke einer Hochdruckzone dominiert trockene Festlandsluft den größten Teil Deutschlands, während weiter südlich eine feucht-warme, labile Luftmasse vorherrscht.
[和訳:高気圧領域の南側では乾燥した内陸の空気がドイツ国内の大部分を支配しているが、一方そのさらに南では、温かく湿った不安定な気団が優勢になっている。]
ドイツ気象局の気象ブログ Thema des Tages の2015年6月10日: Antizyklonale Nordostlage(高気圧性・北東型) より


ここでは動詞 dominieren 「支配する」や vor|herrschen 「優勢である」が使われています。


現象の終息

一方、現象の〈消滅〉や〈解消〉についても実に様々な表現が可能です。シンプルに enden 「終わる」(名詞形: Ende (n. -s/-n) 「終了」)や auf|hören 「止む」(2023/8/20加筆)、 beenden 「終了させる」、もしくは zu Ende gehen 「終了する」などというごく一般的な表現で済まされることも多いのですが、現象によっては sichAkk auf|lösen 「解消する」などの動詞が使われることもあります。この動詞は名詞形 Auflösung (f. -/-en) 「解消」とともに、「(霧などが)晴れる」の意味ではおなじみの表現です。また上で durch|setzen について見た例文の前半には ab|ziehen 「去る」という動詞が使われていましたが、これは雨雲とともにぐずついた天候の領域が東へと遠ざかっていく、というイメージでしょうか。


上であげたのはほんの一例であり、これら以外にも枚挙にいとまがないほど様々な表現が可能です。いずれの場合も、日本語での大和言葉に相当するゲルマン語由来の単語の使用頻度が比較的高いのが特徴的です。(日本語では、特に専門的な文章においては、一部例外もありますが漢語や西洋語起源の語の使用頻度が高くなる傾向があります。)

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