気象予報


予報

ドイツ語で「予報」を意味する語としてまずあげるべきは Vorhersage (f. -/-n) 「予報」でしょう。しばしば Wettervorhersage (f. -/-n) 「気象予報」の形で用いられます。よく似た語に Wettervoraussage (f. -/-n) や Wetteransage (f. -/-n) があり、意味もほぼ同じですが、メディア上でも文献上でも、最もよく見かけるのはやはり Wettervorhersage (f. -/-n) です。「気象」以外にも、例えば Welle (f. -/-n) 「波浪」、 Pollenflug (m. -(e)s/-flüge) 「花粉の飛散」、 UV-Strahlung (f. -/-en) 「紫外線」、 Waldbrandgefahr (f. -/-en) 「森林火災危険度」などをはじめ、実に様々な種類の予報がいろいろな機関から発表されています。


Prognose (f. -/-n) も同様に「予測」「予報」の意味を持ちます。こちらはラテン語経由でギリシャ語まで遡る、いわゆる外来語で、他に医療用語で「予後(病気の今後の経過についての見通し)」などの意味もあります。科学的根拠に基づいた客観的な予測、という側面が強調される時に用いられやすい語のようです。気象の分野では、しばしば Wetterprognose (f. -/-n) 「気象予報」の形で用いられます。


他にも「気象予報」を表す語としては Wetterbericht (m. -(e)s/-e) 「気象通報」「天気予報」があります。直訳すると「気象の報告」になるため、私は最初、気象についての「現況」報告的な意味がメインかと思っていたのですが、試しにドイツ語のオンライン辞書サイト DUDEN Wörterbuch で Wetterbericht を引いてみると、 "(besonders in Presse, Rundfunk oder Fernsehen veröffentlichter) Bericht des Wetterdienstes über die voraussichtliche Entwicklung des Wetters" 「(とりわけ新聞、ラジオもしくはテレビで報道される、)この先の気象の変化についての気象局の通報」となっています。 voraussichtlich 「この先見込まれる」という形容詞が使われていることから、「予報」の意味合いが強いことが分かります。そういえば英語の weather report もしばしば「天気予報」の意味で使われる語でした。実際、ドイツ語の気象概況文を読んでいると、後半で必ずと言っていいほど今後の天候推移についての言及が見られます。手元の独和辞書でも、「気象通報」「天気予報」の意味を併記したものが多いようです。


予報期間による分類

ところで、ドイツ気象局 Deutscher Wetterdienst では、気象予報を予報期間の幅に応じてそれぞれ以下のように呼称しています。(最初の Nowcasting (n.) は名詞、それ以外は形容詞で表記。訳は筆者の仮訳。かっこ内はおおよその目安の時間帯です。ドイツ気象局の気象語彙集 WetterlexikonWettervorhersage (f.) の項目より抜粋。)


  • Nowcasting (n.) 「ナウキャスト」(〜2時間)
  • kürzestfristig 「最短期の」(2〜12時間)
  • kurzfristig 「短期の」(12〜72時間)
  • mittelfristig 「中期の」(4〜10日間)
  • langfristig 「長期の」(10日以上。月間、季節予報等含む。)

例えば半日〜3日先までの「短期気象予報」ならば kurzfristige Wettervorhersage (f.) という具合です。


ナウキャスト

なお、 Nowcasting (n.) は英語の複合語 nowcast (now + (fore)cast) の動名詞形をそのまま借用語(中性名詞)として使っています。日本語では通常「ナウキャスト」と呼ばれる短時間予報に相当するものです。通常の数値予報が過去のデータに基づいて「未来」を予測する (forecast) ものなのに対し、ナウキャストは様々なレーダーデータや地上観測値など直近の観測データに基づいて、時々刻々と変化する「現在」の状態を可能な限り忠実に「予測」し (nowcast) 、それを時間外挿する形で今後の悪天の推移を予測します。通常の数値予報では平均化され事前に捉えきれない、局地的で寿命の短い現象(対流雲による降水など)が発生した時、その移動方向などをリアルタイムで把握するのに威力を発揮します。上記のリンク先の情報によれば、ある時点から2時間先までを予測するものですが、場合によっては6時間先までの時間幅を含む場合もあります(扱う時間幅については文献によって多少の開きがあるようです)。日本と同様、ドイツの Nowcasting にもいくつかの種類がありますが、詳細については上記のドイツ気象局の Nowcasting-Verfahren 「ナウキャスト法」のページを参照してみてください。なお、日本のナウキャストについては、気象庁の高解像度降水ナウキャストのページに詳しい解説があります。


アンサンブル予報

他にも、週間予報や月間予報、季節予報、ハリケーンや温帯低気圧の進路予想など、ある程度幅のある期間の予報の際に用いられる技術の一つに Ensemblevorhersage (f. -/-n) 「アンサンブル予報」というものがあります。( Ensemble (n. -s/-s) の後にハイフンを入れて Ensemble-Vorhersage (f. -/-n) とすることもあります。)これは、いわゆる「数値予報」 Numerische Wettervorhersage (f.) に特徴的な予測手法の一つで、種々の気象要素がどのような変化を示すか、同じ期間について初期値を少しづつ変えながら複数回演算を繰り返し、その結果のバラツキ具合から、その要素の今後の推移とその(不)確実性について判断するものです。日本でも週間、旬間、月間、季節、半候期などの各予報や、台風の進路予測などに用いられています。ドイツ気象局では ICON (ICOsahedral Non-hydrostatic general circulation model(字義:「二十面体による非静力学的な全球循環モデル」))と呼ばれるモデルを運用してアンサンブル予報を行っているのですが、これは気象庁で運用している GSM などと異なり、大気を仮想的に分割する格子 Gitter (n. -s/-) の形が上から見ると三角形をしているという点が特徴的な数値予報モデルです。平たく言うと、地球の表面全体を二十面の三角形に分割し、一つ一つの三角形をさらに小さな三角形に細分化していって、それを底面とする3次元的な柱を設定し、それをさらに色々な高さで区切ったものを格子とするものです。その格子の一つ一つについて大気の状態変化についての計算が実行されます。詳細についてはドイツ気象局の Ensemblevorhersage 「アンサンブル予報」及びGlobalmodell ICON 「全球モデル ICON」のページを参照してみてください。

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