高気圧・低気圧とともに用いられる表現


高気圧や低気圧の発生、移動、衰退等については、枚挙にいとまがない程に様々な表現が可能であり、以下にあげるのもほんの一例です。


発生・発達

まず、高気圧や低気圧が発生したことを単純に表す語としては、 entstehen 「発生する」(名詞形: Entstehung (f. -/-en, 通常は単数) 「発生」)が最も一般的ですが、明確な形をとって出現することを表す sichAkk aus|bilden 「はっきりと形成される」などが使われることも多いです。高気圧や低気圧の発達は sichAkk entwickeln 「発達する」(名詞形: Entwicklung (f. -/-en) 「発達」)が一般的ですが、 auf etwAkk über|greifen 「〜へ勢力を広げる」、 sichAkk aus|breiten 「拡大する」(名詞形: Ausbreitung (f. -/-en) 「拡大」)などのように、勢力範囲の拡大という形で発達が表現されることもあります。 他にも、気団や高気圧などが予報対象地域に本格的に影響を及ぼし始めると、その影響を主語として sichAkk ein|setzensichAkk ein|stellen などのように、前綴り ein- を冠した動詞が使われることがあります。一方、予報対象範囲の隅々まで影響を広く行き渡らせ切ったことを表す場合には、 sichAkk durch|setzen などのように、前綴り durch- を冠した動詞もよく目にします。


滞留・移動

高低気圧がどこかに位置していることを表す場合、まずは単純に自動詞 liegen 「位置する」が使われることが多いですが、同じ場所への停滞、滞留の表現としては、 bleibenverbleiben 「留まる」など、またブロッキング高気圧などのようにその場にどっしりと腰を据える場合には sichAkk etablieren 「(ある位置で)安定化する」など、また頑として同じ位置から動かないことを表す場合には verharren 「居座る」など、実に様々な表現が可能です。一方高気圧や低気圧の移動の表現としては、まずは動詞 ziehen 「進む」(名詞形: Zug (m. -(e)s/Züge)「移動」)を使用するのが最も一般的ですが、他にも durch etwAkk durch|ziehen 「〜を横切って通過する」(名詞形: Durchzug (m. -(e)s/-züge)「通過」)や、 über etwAkk hinweg|ziehen 「〜の上を通過していく」などのように、前綴りを伴った動詞形で用いられることもよくあります。これら以外では sichAkk verlagern 「移動する」(名詞形: Verlagerung (f. -/-en)「移動」)や、 den Schwerpunkt verlagern 「中心を移す(=移動する)」などもお馴染みの表現です。これらは高低気圧以外にも、気団 Luftmasse (f. -/-n) の移動などに使われることも多いです。また steuernzu|steuern という動詞もあるのですが、これらは自動詞として「(低気圧、ハリケーンなどが)進路を取る」の意味で用いられることもあれば、他動詞として「操って移動させる」の意味で用いられることもあります。他動詞用法としては、例えば広範囲に及ぶ低圧部 Tiefdruckrinne (f.) の周辺域で縁辺低気圧 Randtief (n. -s/-s) が発生し、はじかれるように高速で移動した場合に、その移動を Tiefdruckrinne による「操縦」に例えて用いたりします。


到達

高低気圧や前線の到達については an|kommen 「到着する」、 erreichen 「到達する」などのように一般的な表現がしばしば用いられます。他には gelangen も気団や高気圧、低気圧などがどこかへ到達することを表しますが、この動詞には土地を主語にした用法も時折見られます。


VERENA zog nordostwärts nach Schweden und Deutschland gelangte auf die Rückseite.
(低気圧)フェレナはスウェーデン方向へ北東進し、ドイツは後面に入った
ドイツ気象局の気象ブログ Thema des Tages の2020年7月8日: Windiges Wetter mitten im Hochsommer - Woran lag das? (真夏のさなかに強風の天気―その原因とは) より


ここではドイツが移動してどこかへ到達したわけではもちろんなく、単に低気圧の後面という状態下に入ったことを示しているに過ぎません。


衰弱

高低気圧の衰弱は sichAkk ab|schwächen 「衰弱する」(名詞形: Abschwächung (f. -/-en) 「衰弱」)という言い方が普通ですが、低気圧に限っては sichAkk auf|füllen 「衰弱する」という言い方がされることもあります。これは直訳すると「一杯に満たされる」という意味の再帰動詞ですが、例えば小学館版『独和大辞典[コンパクト版]』には5番目の意味として「(低気圧が)衰える」という意味が掲載されています (p.187) 。これはおそらく低気圧の中心へ向けて気流が流れ込む→低気圧の中心の気圧が上がる→(低気圧が)「満たされる」→(低気圧として)「衰弱する」というロジックに基づいて付与された意味なのではないかと想像します。消失については sichAkk auf|lösen 「解消する」(名詞形: Auflösung (f. -/-en) 「解消」)以外にも、天気図上から消え去ることを指して schwindenverschwinden 「消失する」などの表現が使われることもあります。

コメント

このブログの人気の投稿

動詞 ausgehen

降雨にまつわる様々な語句、文表現

Regen 「雨」を基礎語とする複合語

気象予報

予報文でしばしば用いられる語句、文表現

気象の発生・持続・解消をあらわす語句、文表現

Großwetterlage 「広域気象状況」「氾天候」

Regen 「雨」、 regnen 「雨が降る」、 regnerisch 「ぐずついた」

天気・天候を表す非人称構文