天気図上での高圧部・低圧部
地上天気図での高圧部
地上天気図で高圧部が広範囲に及ぶ場合、その周辺域で Isobare (f. -/-n) 「等圧線」が低圧側へ張り出した部分のことは Rücken (m. -s/-) 「尾根」といい、特に等圧線の曲がりが急な部分は Keil (m. -(e)s/-e) 「くさび」と呼ばれます。日本付近の地上天気図では高気圧圏内の等圧線が急カーブを描くことはあまりないのでピンと来ないのですが、ヨーロッパの天気図には日本の天気図とはまた異なる独特の多様性があり、こういう言い方がふさわしく思える形状の等圧線も時折目にします。高気圧であることを明示して Hochdruckrücken (m.) 「高気圧の尾根」もしくは Hochdruckkeil (m.) 「高気圧のくさび」などという言い方がされることも多いです。また、2つの高気圧がつながって細長い高圧帯が形成されれば Hochdruckbrücke (f. -/-n) 「高気圧の橋」と呼ばれますし、2つの低圧部の間に相対的に周囲より気圧の高い領域が出来れば Zwischenhoch (m. -s/-s) (字義:間の高気圧)と呼ばれます。後者は日本付近で言えば、春にしばしば低気圧と交互に訪れる移動性高気圧が近いでしょうか。いずれも必ずしも専門用語というわけではありませんが、気象概況文や予報文などでは時々目にします。
高層天気図での高圧部
一方高層天気図では、上記の Rücken や Keil に加えて、高層であることを明示するために Höhen- を付加した Höhenrücken (m.) 「高層の尾根」や Höhenkeil (m.) 「高層のくさび」などの表現が取られることもあります。ただし高層天気図では、地上天気図と違って「等圧線」ではなく、 500hPa 面などの特定の気圧面の「等高度線」の張り出しをそのように呼びます。これは平均海面からどれだけ上ったところで気圧が特定の値( 500hPa 図なら 500hpa )になるか、その高度をメートル(もしくは図によっては10メートル)単位で図示したものです。「等高度線」は地理学などでは Isohypse (f. -/-n) といいますが、気象学では、それに加えて Linien gleicher geopotenzieller Höhe 「等ジオポテンシャル高度線」という、多少分析的で長ったらしい言い回しもよく目にします。他にも、下層から上層に及ぶ背の高い高気圧が移動せずその場で安定し、上空の西風が南北に迂回せざるを得なくなって、地上低気圧の西から東へのスムーズな流れが妨げられるようになると、そのような高気圧は blockierendes Hoch (n.) 「ブロッキング高気圧」と呼ばれます。
地上天気図での低圧部
地上天気図で低圧部が広範囲に及ぶ際には Tiefdruckrinne (f. -/-n) という語が予報文ではよく用いられます。 Rinne (f. -/-n) は「溝」「樋」「くぼみ」の意味です。複数の低気圧や前線が連続し、その境界も不明瞭で、結果として気圧の低い状態が広範囲に及んでいる際に、その低圧領域全体を指して用いられる語です。日本付近であれば梅雨前線や秋雨前線みたいなものを想像すれば分かりやすいかと思います。
他にも、範囲の大きな低圧部の周辺域に、閉じた等圧線を持った小さな低圧部が発生することがあり、 Randtief (n. -s/-s) (字義:縁辺の低気圧)と呼ばれています。
高層天気図での低圧部
日本語の「気圧の谷」に相当する上層の低圧部は Höhentrog (m. -(e)s/-tröge) といいますが、これは直訳すると「高所の窪地」を意味します。 Trog (m. -(e)s/Tröge) 「窪地」「飼い葉桶」 は英語の trough (発音:[trɔ(ː)f]) とも語源的に共通しており、日本語の文献で上層の気圧の谷を指してしばしば用いられる専門用語「トラフ」はこの英語から来ています。偏西風が蛇行して赤道側へ張り出した部分を指します(その内側が低圧領域になります)。蛇行が大きくなり、閉じた回転構造として切り離された場合には「切離低気圧」となります。日本語の「切離低気圧」は英語の Cut-off Low の訳語ですが、これはドイツ語では Höhentief (n. -s/-s) 「高層の低気圧」と呼ばれます。これは地上部分に対応する地上低気圧 Bodentief (n. -s/-s) が見当たらないことが往々にしてあり、 Kaltlufttropfen (m. -s/-) 「寒気のしずく」と表現されることもあります。これは名前の通り中心部に寒気を伴っており、日本語の「寒冷渦(かんれいうず)」に相当する単語です。「寒気 (Kaltluft) のしずく (Tropfen) 」というとちょっと詩的で風情のあるネーミングにも聞こえますが、ひとたび発生すると上空の寒気によって大気が非常に不安定になり、しばしば天候の急変をもたらすため、日本語の「寒冷渦」同様、予報解説文に出てきたら厳重な警戒を要する語でもあります。
熱帯低気圧によく用いられる表現
他にも、大気が定常的な状態からはずれて不安定になった場合、その状態は Störung (f. -/-en) 「擾乱(じょうらん)」と呼ばれます。英語の disturbance に相当する用語です。また、様々な規模や勢力の低圧部は Depression (f. -/-en) と呼ばれることがあります。(ただし熱帯域の低気圧の勢力段階では、通常 tropische Depression (f.) は1分間の平均風速34ノット (≒63km/h) 未満の一番弱い段階を指して使われます。64ノット (≒118km/h) 未満の中間段階は tropischer Sturm (m.) 、それ以上は tropischer Orkan (m.) と呼ばれます。それぞれおおよそ日本の予報用語での「(台風の勢力未満の)熱帯低気圧」、「台風」、「強い台風〜猛烈な台風」に相当する用語です。)
回転軸を持つ様々なサイズの風系は Wirbelsturm (m. -(e)s/-stürme) (字義:渦の嵐)と呼ばれます。また様々な低気圧システムの発生・発達過程は Zyklogenese (f. -/-n) という語で表されます(反意語: Zyklolyse (f. -/-n) )。これはハリケーンから竜巻、つむじ風に至るまで、様々なスケールの風の渦巻き構造の生成・発達過程を指す概念です。これらの語は、台風やハリケーン、サイクロンなど熱帯域での風系や対流活動を扱った専門的な文章ではしばしば目にする表現です。
コメント
コメントを投稿