広義の Wetter
Wetter (-s/-) という語は、専門用語としてはある一時点もしくはごく短い時間幅における具体的な気象現象を指して用いられるものですが、実はこの語には、狭義での「天気」にとどまらず、そのタイムスパンの長さに関わりなく、広く「気象」そのものを指して用いる用法もあります。(そのうちのいくつかについては当ブログでも既に取りあげています。)例えば、広く気象一般を扱った、いわゆる気象本のタイトルに使われる語としても Wetter はおそらく鉄板でしょう。専門用語としても、 Wetter は短期的な「天気」にとどまらず、例えば Wetterlage (f. -/-n) 「気象状況」(1日程度同じような気象条件が持続した場合に、その状態を指す語)や Großwetterlage (f. -/-n) 「広域気象状況」(もしくは「氾天候」:数日から数週間程度、広範囲で同様の気圧配置や気流の状態が持続した場合に、その状態を指す語)などの語においても用いられます。「気象学」 Meteorologie (f. -/ ) は、 Wetterkunde (f. -/ ) (字義:「気象の学問」)と呼ばれることもあります。これらの語における wetter- からは、「短期的な天気」としての意味合いは薄れているように思われます。
これと比べると、 Witterung (f. -/-en) 「天候」の方には、ある程度幅のある期間における大気の平均的な有り様を表す意味しかなく、短期的で具体的な「天気」の意味では使いづらいようです。つまり Witterung 「天候」は、使える期間などの縛りがある分指示範囲が限定的なのに対し、広義の Wetter にはそのような縛りはなく、「天気」から「天候」、さらに言えば Klima (n. -s/-s, -te) 「気候」まで、より広い範囲を指示しうることになります。言い換えれば、広義の Wetter は、狭義の Wetter 「天気」や Witterung 「天候」(やそれ以外の語)を包摂した上位概念 (Oberbegriff) である、ということになります。
と、少なくとも私はそう解釈しているのですが、ドイツ語版 Wiktionary の Wetter の項目では、逆に Witterung (f.) 「天候」や Klima (n.) 「気候」の方を Wetter の上位概念 (Oberbegriff) としてあげているようです(2020年12月現在)。おそらくこれは Witterung や Klima の方が扱うタイムスパンが長いことから、これらを狭義の Wetter を包摂する、より広い概念であると解釈した結果なのではないかと思われます。
確かにタイムスパンのみに着目すれば、そういう考え方もありえるのかもしれません。ただ、 Witterung はあくまでもある程度の幅を持つ期間における「平均的な」気象状況を指す語でしかありませんので、様々な(狭義の)気象現象(例えば晴れ、曇り、にわか雨、長雨、集中豪雨、突風、竜巻、つむじ風、落雷、ごく短い時間の薄曇りなどなど)を全て包摂する上位カテゴリーのラベルとしては、正直あまり適切とは言えないように思われます(広義の Wetter ならばともかく)。また Klima との関係についても、そもそも単純な下位概念・上位概念のくくりで見ていいのかについても大いに疑問があります。 Wiktionary はオンラインの辞書のようなもので、 Wikipedia 同様非常に便利でありここでもしばしば引用していますが、時としてこういう?な記述がみられることがあります。また、同じ語の解説でも何語版を用いるかによって少しづつ内容が異なることがあり、実際英語版や日本語版の Wiktionary には Wetter の上位概念についての記載はありません。(そのかわり日本語版も、 Gewitter 「雷雨」を Wetter の「対義語」としている(2020年12月現在)など、いろいろと?なところはあるのですが…)まあ、参照する時は自己責任で、ということなのでしょう。
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