Witterung, Gewitter, Unwetter, Wetterchen


Witterung 「天候」

Wetter (-s/-) と同語源の語の一つに Witterung (f. -/-en) がありますが、こちらはある地域での一定期間(数日から数週間)における平均的な気象状況を指して用いられます。日本語では専門用語としての「天候」におおよそ相当すると考えていいでしょう。あくまでも幅のある期間内での「平均的」気象を意味する言葉ですから、その期間における平均的気象状態を切り出して述べる際には、この語を Phase (f. -/-n) 「局面」や Abschnitt (m. -(e)s/-e) 「断片」「区間」などの名詞と組み合わせて、例えば Witterungsabschnitt (m. -(e)s/-e) 「天候局面」(つまりある期間における平均的な気象状況のこと)などという風に使用されることもあります。


なお、この語の動詞形 wittern は、本来は「嗅ぎつける」という意味を持ち、名詞形 Witterung にも「天候」と並んで「におい」、動物の「嗅ぎつけ」など、「嗅覚」と関わりの深い意味があります。これらと Wetter の語根に想定されている「風が吹く」という意味との間には、一見すると何の関係もないようにも思えます。ただ、そもそも匂いは風が吹くことによって初めてよその地へ運ばれるわけで、匂いを嗅ぎつけるという行為自体も、風が吹いてくる方向へと鼻を向けて嗅覚を働かせることにほかなりません。また物の匂いを嗅げば当然鼻腔内での呼気の流れも伴います。これらのことを考え合わせると、「匂いを嗅ぐ」という行為と「風が吹く」という現象の間には、「気流の流れ」という共通項を介して実は密接な関わりがあるという考え方もできます。


Gewitter 「雷雨」

他にも Wetter (n.) や Witterung (f.) と同じ語源を持つ語には Gewitter (n. -s/-) があります。語形としては前綴り ge- が付加された形ですが、こちらはなぜか「雷」「雷雨」の意味を持ち、しばしば Schauer (m. -s/-) 「にわか雨」と組み合わせて、 Schauer und Gewitter (字義:「にわか雨と雷雨」)の形で発雷を伴ったにわか雨を指して用いられます。この表現が予報文にしばしば登場するのは、主として日射によって大気の下層が温められ、上空との気温較差が大きくなって対流活動が活発になり易い暖候期ですが、時には冬季に見られることもあります。冬季、寒気の吹き出しに伴って北や西からの季節風が強まると、その空気は海の上を通過する際に熱と水蒸気の補給を受けるため、冷たい上空の空気との気温較差によって大気は不安定な状態になります。ここでその季節風が内陸の寒冷な空気の上に乗り上げたり、山地にぶつかるなどして上昇気流が発生すると、冬であっても雷雲が発達することがあります。日本でも、冬の日本海側のいわゆる「雪起こし」は同様のプロセスによって発生します。


Unwetter 「荒天」

他にも Wetter の同根語としては Unwetter (n. -s/-) があります。接頭辞 un- が付いているので一見反意語のようにも見えますが、この場合はそうではなく、「ひどい天気」すなわち「災害をもたらすレベルの荒天」くらいの意味を持ちます。(接頭辞 un- には、特に名詞に付加された場合、「悪い」「ひどい」の意味を付加する用法があります。)雷雨に限らず、人的、物的被害が予想される様々な現象に関して用いられます。専門用語としても、例えばドイツ気象局の地方自治体ごとの警報ページ Gemeindewarnungen aktuell では警報 Warnung (f. -/-en) を大きく四つの段階に分けているのですが、そのうち上から二番目に重大な警報は Unwetterwarnungen (f. pl.) 「荒天警報」と呼ばれています。なお、最高度の警報は Warnungen vor extremem Unwetter (極端な荒天への備えのために出される警報)です。ただし被害をもたらす現象でも、熱波や低温、旱魃などについては、少なくとも警報の基準では Unwetter という語は用いないようです。日本でも、例えば乾燥については「警報」はなく、「注意報」どまりなのとちょっと似ているかもしれません。ただし Gewitter (n.) 「雷雨」や Tauwetter (n.) 「雪解けを起こす陽気」については使うことがあるようです。特に後者については、雪解けによる増水が時に下流の河川で氾濫を引き起こし、重大な被害をもたらしかねないからのようです。


  1. Wetterwarnungen 「気象警報」
  2. Warnungen vor markantem Wetter 「激しい気象への備えのために出される警報」
  3. Unwetterwarnungen 「荒天警報」
  4. Warnungen vor extremem Unwetter 「極端な荒天への備えのために出される警報」

まとめると以上のようになります。(訳はいずれも仮訳。上から下へいくほど警報程度が上がります。前の数字は Warnstufe (f. -/-n) 「警報等級」と呼ばれ、通常1から4まであります。)強風、強雨、雷雨など、現象ごとに具体的な警報基準が決まっています。詳しくはドイツ気象局の Warnkriterien 「警報基準」のページを参照してみてください。また Unwetter については、同じくドイツ気象局の気象語彙集 Wetterlexikon の Unwetter の項目も参照のこと。


なお、ついでですが、 Unwetter と同じ接頭辞 un- (「悪い」「ひどい」)を付加した語としては、他にも Ungewitter (n. -s/-) 「ひどい雷雨」という語があります。ただこちらは完全に古語であり、少なくとも気象を扱った文章では今日見かけることはまずありません。


Wetterchen

Wetterchen (n. -s/-) という語は Wetter に指小辞 -chen が付加された形です。小学館の『独和大辞典[コンパクト版]』には、《俗》という但し書きとともに飛び切りの上天気という訳語が掲載されていますが、一方ドイツ語版 Wiktionary の Wetterchen のページには、 "besonders schönes oder schlechtes Wetter" 「とりわけ良いもしくは悪い天気」という訳語が載っており、悪い意味で用いられることもあることが示唆されています。私自身は文章語としては今まで見た記憶がないのですが、会話表現にはきっとあるのでしょう。


(2022年1月30日に Unwetter の項目を多少書き換え。 Warnstufe のリストの順序を逆にするなどしました。)

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